踊るとは踊らないこと

「踊るとは踊らないこと」というのは私がかなり以前に土方巽関係の本で読んだ言葉だ。本人が言ったのかどうかは知らない。文脈を忘れてしまったので今や勝手に解釈するしかないが、いわゆる踊りという概念でくくられるようなものは踊らないという風にも、結果として彼の踊りとなったもの以外に多くのあるかもしれなかった踊りを彼自身が捨象した、という意味であるようにも思える。同時に二つのことは選択できないのだから。

今朝私は実験をした。今日中にやらねばならない、あるいはやると決めた事柄が五つ六つあった。それらを全て済ますまで他のことはしないでおこうと思う。

最初の二、三を完遂する前に、それらとは違うことをしそうになる自分の衝動と激しく戦う羽目になった。小はふと床の上の埃が目に入って掃除をしたくなったり、大は別のプロジェクトを思い出してそのやや込み入った懸案事項について検討したくなったりと、かなり意志力を使う必要があった。しまいには狙った仕事ができたのは、それをしたからではなくむしろそれでないものをしなかったからではないかと感じたほどだ。

我々は成したことだけでなく成すことを選ばなかったことによっても形作られる。これは気づきづらいけれども結構重要なことではないかと思う。

だから「踊るとは踊らないこと」という言葉が、読んでから何十年たっても忘れずに心に残っているのである。

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