絵具の絵 ~ 杉田陽平「マテリアル・ワールド」

絵具というものは非常に美しいものである。

油絵具であれアクリル絵具であれ自分がそれを見るとき直接的に想起するのは、大げさではなく一種の「純粋性」とか「光源」とかいうものであって、ゲル状であることを除けば宝石と同じ位美しいものだと思っている。
そうしてまた、何も描かれていないカンヴァスも美しい。木枠にパリッと張られた描かれる前のカンヴァスは、少なからぬ場合絵が載った後よりも美しい。紙も同様であって、500枚550円なりのコピー用紙だってじっくり見れば陶然とする位すがすがしくきれいで、手漉きの和紙や高級版画紙等々の美しさたるや、「もうこのままでもいいや・・」と思ってしまうほどだ。

何が言いたかったかというと、物品としての絵なるものを描くことは特段難しくはないとしても、良い絵を描くことは結局そんなに容易ではない、ということ。
上述のようなゴージャスなものを使用するにあたり、超絶豪華な衣装を着たしょぼい人、とか、ベルリンフィルとリストのピアノコンチェルトの楽譜を前に、ピアノの先生のヒステリーが怖くて中二で音大に行くのをあきらめた(個人的実話)人が途方に暮れるの図になるかもしれない。もちろん、ゴージャス陣は元々は我々を助けてくれるために存在するのだが。

前置きが長かったが、国内最大のオンラインアートギャラリー タグボートさんが有楽町阪急メンズ7Fで開設したリアルギャラリースペースのこけら落とし展示、杉田陽平氏の「マテリアル・ワールド」に行った。
アクリル絵具の皮膜化などで知られる氏だが、色鉛筆で「絵具のありさま」の描いた小品の連作が個人的には好きであった。
美しい紙の上に美しい顔料を包含する色鉛筆で、テレっとした絵具自体のありさまが緻密に描写されていて、その絵具も当時輝いていたのだろうけどその姿が時を経て今目の前の描画材に含まれる顔料自体の輝きで目を射るのである。

ここにないのにここにある、それは、絵具というものを、絵具もそうであるところの描画材で描いたからで、かつ支持体(紙)も描画材もモチーフ(絵具)も相互にしっかり互して美しく調和しているために、そのトートロジー的構造が恐らく、人や花や景色を絵具で描くのとはちょっと違う「トリップ感」を醸し出していた。

リヒターやリキテンスタインにも絵具や筆触をモチーフとしたものがある。個々の制作の企図は異なるものの、これは一つのニッチなジャンルである。

杉田陽平 「マテリアル・ワールド」
開催中 4月18日まで。

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