360度相対の地獄

ここ3週間ばかり大掃除をしていた。

3週間と聞いてええ~と思われる方も多いとは思うが、年末だからというばかりでもなく自分には突発的に大規模で徹底的な掃除を実行するというヘキがある。まだ使える什器や小物まで派手に買い替えるので知人からは御道具を作り変える遷宮に、冷ややかになぞらえられているのだが、ともあれ平成最後の大遷宮がようやく終って心底ほっとしてもいいはず。

が、ほっとする一方心穏やかでない部分も残るのである。

というのも、全体がキレイになって終ったと言っていい状況にもう十分になっているのに、むしろそうだからこそ、それまでは何ということもなく見過ごされていた微小なシミだの汚れだのが異様なまでに目立って知覚されてくるからだ。

コンセントのまわりのクロスの微かな黒ずみ、何かをぶつけた時についたドアのキズ、テーブルの脚に飛び跳ねた直径2ミリの絵具の点々・・・。そしてこれらを清めたり補修したりするにつれ、汚れ知覚の精度はいや増さり、もはや対象は名もなき者たちの国へと突入するのであった。即ち、何と呼ぶのか知りさえしない、部屋の床近くにぐるっと付いている高さ5センチ位の板状のものとその5ミリ程の上面についている埃、ドアにガラスの窓が付いているのだがその回りに飾りとして彫ってある幅及び深さが3ミリ程の溝の中に溜まった汚れ、トアといえばドアが納まる枠みたいなものの上面にうっすら積もった埃とか(決して誰からも見えはしない)。

もう気分はマクベス夫人である。永遠に、完全には綺麗になんてならないよ・・。もはやアリ地獄。でもこれ当り前。どこかをキレイにしたと思っても、そうしたが故にその周りに相対的にキレイでないところは必ず現れる。

こういうことに鋭敏な性質というのは、美術とか、何かの役に立つと思って自分を慰める。
て、いうか、実はこの状況が大好き。だから地獄とは言っても楽しい地獄なのである。

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