あるきぞめ、または、イムレ・トルマン

人類が直立二足歩行を始めたのは500万年以上前とされる。
初めて歩いた人類は、何を感じただろう。

イムレ・トルマンはスイス人の舞踏家。
舞踏の大家大野一雄に師事し、野口体操の野口三千三にも薫陶を受け、アレクサンダー・テクニークという、西欧の芸術大学等で広く実践されている身体技法の公認指導者でもある、身体の動きとその表現の専門家である。

長く日本で暮らし、現在はベルリンに在住。
土方巽を始祖とする舞踏の、おそらく世界でも有数の継承者である彼が、同じくスイス出身の優れたピアニスト ニック・ベルチュとのコラボで、11月7日~9日、東京で公演を行う。

これまで数々の舞踏を観たが、発祥の地日本においても、彼に匹敵する圧倒的表現力を持つ舞踏家にはまず出会わない。
我々の動きには既に、歩く、座る、ふりかえる、うなずく、うなだれる、肩をすくめる、等々みな名前がついていて、その名が意識しようとしまいと、舞踏家も含め深く我々のなまの体験を侵食し続けているのか、動くことは容易に習慣化あるいは形式化して、動きと共にいることはなおざりになる。

今その名を忘れて、自由になった原初の動きに会うには、イムレ・トルマンを観ることが最良の機会のひとつであることは、間違いない。

初めて歩いた人類が感じた驚き、怯え、喜びを、細胞レベルまで完全に制御した芸術表現として提示する彼の美しいからだにまた会えることを、心から楽しみにしている。

公演情報

 

 

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