地震の日のこと

その日浮世絵好きの知人と連れだって墨田区の催す北斎生誕250年記念展覧会「北斎のバードアイ」に向かった。会期を勘違いしていてまだやっていなかったので、清澄白河のANDO GALLERYに、篠塚聖哉の個展「ペネトレイト」を見に行った。

清澄白河といえば、少なくとも字の上からすれば、清くて澄んでいて、白くて河だ。篠塚氏の展示は清かった。アルシュ紙にオイルパステルで描かれた絵のみずみずしい色とつやは自然現象のようで、表現と技法の奥に作者自身の企図は深く潜んでいた。

帰りみち地下鉄に乗っていたら、永田町の駅で地震にあった。こわかったので申し訳ないがずーっと知人の腕につかまっていた。すごく揺れていたが、知人も、他の乗客も、小さな子どもも含めて自分ほどおびえている人はいなかった。特に駅内で聞いたアナウンスの声や内容、車内を見回りながら歩いていく駅員さんの足取りや動作は、まるで毎日その訓練をしてきたかのように、皆落ち着いていた。

地上に出た時、知人に「それ、やめてくれる?重くて判断誤る。」と言われたので手を離した。2時間歩いて家に帰った。

できうる限り落ち着いているものは清い。余計なものがないということで、それがいかなる状況にあってもおそらく適切な選択を可能にするだろう。
自分はといえば、あまり落ち着きのない方だ。それが今の自分の質なので、否定はしない、というかできないけれども。

篠塚聖哉「ペネトレイト」(ANDO GALLERY)

 

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