あなどれない・・・

さる駅ビルの中を歩いていたら、小学校にあがるかあがらないか位の男の子を連れた家族とすれ違った。落ち着いた物腰の夫婦の傍らで、息子の方はえらくくったくたと動きまわり、かわいいことはかわいいがせわしないことこの上ない。視線を空にさまよわせながら1メートル進むのに3メートル分位動き、親にたしなめられている。

そこでの用事を終えて別の所で夕食などもとり、家の近くを歩いていると、なんとその親子が向こうからやってきた。偶然近所に住んでいたらしい。すれちがいざま、件の男の子が私を見て、小声で「あっ、さっきいた人!」と言ったが、母親が「何いってんのー、違うわよ」と即座に否定したのを私はしっかり聞いた(いくら暗かったとは言え完全に否定されてしまった・・)。そして、くったくたしてた割に周辺視野でしっかり自分を認識することのできていたその子を、自分は心底尊敬したのであった。なかなかにあなどれない鋭い観察力である。

人間がものを認識する力というのは面白い。全然意識的に見ていないようでも感覚が開かれていて多くのものを受け止めていることもあれば、凝視してるつもりでろくに見てないこともある。近所に散歩に行って帰ってきたら、お風呂に入って出てきたら、朝起きてみたら、などたったそれだけのことで、自分が何日もかけて描いてきた絵の致命的欠陥がまるで日の丸の旗の赤いところのように中央にでんと鎮座しているのを見出したりすることがあるのが前から不思議だったが、要は描いてる間はそこのところは見てなかったのである。

まあ見てなかったことを見るようになるとか、意識してなかったことを意識するようになるということが、ゲージュツの醍醐味だとは言えるけれど。

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