感覚の相対性

やってみないとわからないことがある。というかその方が多い、いや、やってみなくてもわかることは、ひとつもない。いつも使っている歯磨きの味だって、こちらの体調で違って感じることもあるだろうし。もっともちゃんと注意を払えば、という話。

最近節酒を始めた話を前に書いたが、それはよろよろとはいえまだ続いており、スリップにつぐスリップの結果ではあるが元の3分の2位には落ち着いている。といっても自分は大して飲まないので、週にワイン4、5杯が3杯になった位の減り方だけど。実は節酒後初めて気づいたのだが、お酒は料理をおいしくすると勝手に思いこんでいたが、飲まない方が明らかにおいしい。理由は単純で、飲みながら食べると酒で料理の後味を速やかに消してしまうからである。飲みながらの食事がおいしいという感覚は自分の場合単に酒がおいしかったのかもしれない。(ちなみに料理がまずければますますそれが際立つ。酒でごまけないからである。)不思議なのは昼食も含め飲まない食事はしょっちゅうしているのに、なぜか節酒を始めた後からこの事実に気づいたことだ。夕食時に飲まないときは飲みたいという気持ちを若干抑えているのか、それが故に感覚が鋭敏になるのかもしれない・・・。

いずれにせよ感覚というのは相対的なものである。条件や状況が変わると簡単に感じ方が変わる。あるいは新しい感覚が立ち上がる。

感情だってそうなんだろう。数年前に亡くなった自分の愛犬(チワワ)のことだが、私はこの子は世界で一番自分のことが好きなのだ、と信じて疑わなかった。ところが家のリフォームの関係で一時人に預けなくてはならなくなり、元はといえばその子をペットショップでみつけて私に「推薦」してくれた知人の家にもっていった処、彼の顔を見るなり私の犬は見たこともない程相好を崩し、家に入るやいなやゆるゆるにくつろぎ、目はただひとり彼しか追わず、リフォームが終わって迎えにいったときには明らかに「帰りたくない」というそぶりを見せたのである。

その子自身もそれまで気づいてなかったかあるいは忘れてたかもしれないが、私はそのとき「自分は2番だったんだな~」ということを、悟ったのであった。

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