渋谷 シネマライズでチャーリー・カウフマン監督「脳内ニューヨーク」を見る。
監督は「マルコヴィッチの穴」などの脚本家。
空に浮かぶ人のよさそうなおじさんの頭の上にニューヨークの街が王冠のようにのっかっているポスターを見て、てっきりコメディだと思っていた私は、冒頭からさえない風貌の劇作家の主人公(アカデミー賞主演男優賞受賞の名優フィリップ・シーモア・ホフマン)が色んな病気を患ったり、奥さんが娘を連れて出奔したりのクラいエピソードに辟易しつつ、これがいつ逆転して「脳内」だろうがなんだろうがおもしろおかしくなるのか、と期待しながら見ていた。
ところがおもしろくなるどころか話はそれからもどんどん悲惨になり、生老病死の奔流で七転八倒の主人公は、受賞で得た大金を元手に巨大セットと大量の役者を使って自分自身の人生を再構成しようとするが・・・。
脚本も演技も実に素晴らしい。一方、何の救いもカタルシスもない。一緒に見た知人が、「ハリウッド映画の真逆」と言っていた。
仏教では人生が苦であることは真理とされている。しかしその原因である欲や無知の構造を正しく理解して苦の超越を目指すことをも説いている。
この映画は前半の真理を見事に描ききっているが、後半についてはゼロ。日本人だから、ちょっとだけ仏教を知っていて、よかったなー。
いずれにせよ、こういう映画を創れるのは精神的にすごいマッチョな方々であることは間違いない。
繊細と言えば聞こえはいいが、くまのプーさんのピグレットに毛が生えた程度に精神力にへなちょこの気味のある自分としては、「見るだけでもたいへん映画」今年のナンバー1を授賞する。