方円

水は方円の器に従う、という言葉があるが空間も本来、水のように形を持たない。しかし突飛な建築などはともかく、文明化された環境の中で大抵の人が普段暮らしている部屋はまだ四角いものが多いし、絵画も多くは四角い面に描かれる。正円や楕円のカンヴァスは普通には売っていない。そういえば先日新宿の世界堂に行ったら、正方形のカンヴァスが、普段はお取り寄せですが今だけ特別価格でここにご提供!みたいにたくさん箱に入って置かれていて、思わず買いそうになってしまった。正方形は自分の好きな形で、日頃からばしばし売ってたらいいと思うんだけど。四角いといっても、正方形より長方形の方が、ポピュラリティーという意味では上位に位置するのがこれでわかる。

話がそれていくが、犬の視野はヒトよりも随分横長だと聞いたことがあるけれども、ヒトのだって自分の感覚では結構横長の長方形だ。それなのになぜヒトは縦長の画面を描きたくなるか(自分の場合はすごく単純に言って長方形は横に置くより縦に置いた方が気持ちがいい)。こういうことを考えてると際限なくおもしろい。だってものごと必ず、理由があるはずで、でもそれがはっきりとは提示されておらず、勝手にあれこれ考えて誰も文句を言わないなんて、大変に自由でよろしい。

何が言いたかったんだっけ。そう、なんであれ自覚的であった方がいいような気がしたのだ。結局の処は四角いカンヴァスを用いるにしろ(カンヴァスでなくとも市販の支持体はほぼすべて四角い)、どういうポーションをなぜ選ぶのかということについて。ばかばかしい程にあたりまえすぎる話ではある。美術制作上の理論だって(自分はあまり知らないけど)たーくさんあるんだろう。

また話がすべるがカンヴァス(canvas)とはつまり「帆布」であり、すなわち海に関係がある。それまでヨーロッパでは絵は主に木の板に描かれていたが湿気に弱いので15世紀頃に船の帆が代わって用いられるようになったのだ。

だからという訳ではないだろうけれど、自分は標準的なF(Figura・人物)、P(Paysage・風景)、M(Marine・海景)の規格ポーションのカンヴァスの中では、何が描きたいという構想がたとえ何にもなくとも常に、生理的にはMがいちばんぐっとくる。

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