欠けたものの力

「心理的であれ物質的であれ、欠けているものを埋めようとすることに、我々は血道をあげる。

欠落というのは、まさにそこに存在していないがゆえに、あらゆるものの内でも最も強いエネルギーを有するもののひとつだ。アートの表現で、饒舌という方向に自分が魅力を感じないのはそのせいもある。」

と2010年にこのブログで書いたことがあるが、この考えは今も変わっていなくて、何かが欠けていて、その欠けていること自体が作品の質を主にレバレッジしている、そういうものを自分は興味深いと感じるし、自分の好きな方向性での高品質な制作物というものは、大概そういう性質を有している。そこには意識的無意識的に、何かを完全に捨象するか、あるいは存在しているのだけれど隠ぺいして、見る者に容易に知覚・理解させない、という戦略が絡んでいるような気がする。絵画史上最も有名なかの女性の表情などは、その例かもしれない。

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