こわくない話

都内のあるバーで飲んでいたら、知人が「やばい人がいる」というので振り返ると、隅の方でカウンターにひとり座っている髪の長い女の人がいた。ぴくりとも動かないという物理的なことはともかく、単に陰にこもっているというより、そういう感情的なものをはるかに超越した生命感のなさがあったので、しばらく気になっていた。

30分近くたって彼が、「あ、足がない!」と言った。確かに本来彼女の足があるべきところには、椅子の脚しかなかった。別にオカルト方面の話ではなく要は人形が上半身だけ椅子の上においてあったのだ。

ということで「こわくない話」なのだが、ひとめで人形と見抜けないくせに生命感がない、ということだけは見抜くようなあいまい至極の感性で、適当なことを考えたり感じたりして生きていること自体は、まあこわいという程ではないにしても覚えておいた方がいい、と思った次第。

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