プロセスを創る

自分はビニール製のマスキングテープ状の素材で孔版を制作し、それで版画を作っている。これが緑色なのだが、ときどきそのかけらが髪の毛や服などについているときがあり、人から「何かついていますよ」と言われると即座に「あ~、緑色の?」と返すのでぎょっとされる。だって人が親切にも何かついてると教えてくれるとき、およそ9割の確率でこれなんだもの。

もとい、紙や板などの支持体にこの孔版を貼りつけるとき、支持体がざらざらしていると孔版が充分に粘着せずその隙間に絵具が入り込んで作りかけの作品はオシャカになる。ジェッソ(地塗り剤)だけを平滑に塗った紙や板であればそんな故障モードは起こらないが、それだとそっけないので、地塗りだけでなく諸々の絵具を色んな風に塗って適度に味がありつつ十分に平滑で、孔版の付きもばっちり、という地を創らんとす、なのだが、これぐらい微かな凹凸なら大丈夫なはず、という読みはしばしばはずれ、凹凸の程度の微妙な差かあるいはその他の未知のパラメーターが異なっていたのだろう、立派なオシャカが発生する。実際一昨日一日かけて創った地にも昨日の朝それが起こった。版を剥がすとフチに絵具が入ってしまっていてびしっといくべきエッジがでこぼこである。7時間及び5千円位のリソースが宙に消える。

ちぇっと思いながらも、もしかしたら毛が三本足りないのでは、と思うほど失敗に耐性がある自分は同じ大きさの板を出してきて、今日こそは平滑かつ味のある地をものにしよう、かつその手順も多少は標準化するぞ、と、手順メモをとりながら作業を進める。目的自体はシンプルだったが、以下の紆余曲折をたどる。

1.支持体の集積板に水でかなり薄めた銀色の絵具を筆でランダムに塗る。
2.少し暗い色味を求め黒のスプレー。
3.不透明な白を太い筆で叩くように塗る。
4.乾かしてから銀と白をまぜた薄い絵具で塗る。
5.その後透明な白を筆で叩く。様子を見て控えめに水をいれた不透明な白で更に叩く。
6.扇風機で乾かしながら、水っぽくした白を筆で平滑に塗り、濃淡など全体の調子をみながら部分部分に加えていく。
7.少しだけ銀に白まぜたものをステンシル用のスポンジで叩くように塗る。
よさそうだったが下の乾いていない部分に企図に沿わないムラができ、修正を試みたが直せず、
泣く泣く濡れ雑巾で全体を拭き落とす。(上記の4位の状態に戻る。)
8.濃淡のバランスをとるため黒スプレーを薄めに吹く。
9.その後複数のメーカー違いの白にそれぞれ少しだけ水を混ぜて筆で叩く。
10.銀とパールホワイトのスプレーを画面上下から拭いてグラデーションを施す。
11.ハイグロスのニスを塗って地を仕上げる。

そこで私は思った。これらのプロセスを省みるに、またできあがった結果をみて、途中横道にそれたり効果的でなかった手順を除いて本質のみにそぎ落とすならば、つまりは以下の通り、という仮説が成り立つ。所用時間は恐らく10分の1以下。

リーンな標準プロセス(の、仮説):

板に薄い白か銀を塗り、その上に薄い黒を絵具かスプレーで(反対色が下にある方が上の色が映える)。透明・不透明の複数の白に少し水を混ぜたものを筆で叩く。全体が均質になったら上下から銀と白系のスプレーでグラデーション。ニスで仕上げる。

さて、この仮説の検証はまだやっていないが、次この手順を参照して行う際、かなりの場合において少しだけ違うことをやりたくなったり気づかずに未知のパラメータ領域に進出し、その対処に苦労するであろうことを経験的に私は知っている。以前ジェッソのメーカーを変えたら、また同じメーカーであっても粒子の大きさの種類を変えたら、あるいは絵具の微妙な経年劣化が目指すところの効果が得られなかった負の要因だったこともある。

で、ものを創ったりするのはかなりの処、そういうことだ。形としては作品を創っていても言ってみればプロセスを創っているのである。プロセスをあれこれ試みていく方が個々の作品を創るよりある意味面白い。

効率だけを問題にするのであればともかくとして、少しずつ違ったことをするというノイズを皆無にしてはつまらないのである。

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