無常

モナリザはすべてを見透かしているような顔をしている。
何か知らないことがある人の顔ではない。

そのせいか私には、あの表情がもの知らぬ人々に対する多少の憐れみを含んだ、「嘲笑」のように感じられる。

一方、上記のような解釈も含め常に何か一つの、あるいはいくつかの意味が固定的に感じられるかと言えばそうでもない。描写の精緻さから包含している視覚情報が膨大なせいか、見る側が例え同じ人間でもその時々の心情や関心で日々見え方が変わってしまう。彼女の顔を見ていると、何か巨大なデータベースにアクセスしているような奇妙な気分になる。しかも何を求めてアクセスしているのか、自分にもわからないのだ。

ダ・ヴィンチは手稿に、「すべては連関している」と書いた。
これはキリスト教的というよりむしろ仏教的な認識である。

この世における複雑な因果はついぞその運動を止めない。故にモナリザの表情も、500年を超えた今もなお激しく震え続けているのである。

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