連れてかえってくれた犬の話

前回のブログに書いたドーベルマンを連れて、ある日知人宅より散歩にでた。

犬の行きたがる方に歩いて行くと、ラブくんというその犬はまず知人の家の裏山に行き、近くの病院の入院患者さんらしいおじさんがパジャマのまま斜面でたばこをくゆらしていたのを背後から突然匂いをかぎに行って斜面から転げ落ちそうにするくらい驚かした。さらに裏山の底にある運動場では、やってきた子供たちに「ラクダだー」と騒がれたりしたが、まったく無視していた(大きい体躯の背中の筋肉が隆々としているからだろう)。そのままついていくといつか自分の背丈より高く草が生い茂っている場所に私を連れていき、その草むらを抜けると、まったく知らない場所だった。川端康成の「雪国」の冒頭のように、トンネルを抜けるとそこは雪国であった、的な少なくとも感覚的状況に自分は陥ったのである。

そこは狭い道のでこぼこした舗装の道の両側に、小さな商店が並んでいた。当時は携帯もなかったのだが、自分は知人の家に電話をかける10円玉すら持っていなかった。

ラブくんはきっといつか家に帰ろうとするだろうと思い、進んだり戻ったりして一向に集中力というものを発揮しない彼の後をついていったら、1時間位してやっと見覚えのある場所に出た。

ということで、お犬はやっぱり、散歩などの自由を楽しみはするけれど、自らおうちに帰る。

ところで彼自身は、私がわからなくなった場所にそれまで散歩に来たことがあったのだろうか。それは今でも知らない。

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