エリックとの再会

「過去と他人は変えられない」という言葉があって、なんだかこれを見聞きするたびに、あまりいい気持ではなかったのである。

なぜならば、いかなる過去も、現在のまたは現在に至るまでの自分の体験や状況によってころころとその解釈(自分にとっての意味)は変わる、そしてまたこれまでの経験を振り返ってみると、自分を要所要所で決定的に変えてきたのは、人との関係や彼らの自分に対する言動や想いだったりする。ということは私にしても他人をド派手に変えてきたのに違いない。

つまりこの言葉は、経験的・論理的にまったくもって納得がいかないのである。自分に言わせれば、「過去も他人も変えられる」ことは自明なのだ。

私程度の観察力もない人がこれを言い始めたのだろうか、と思って調べたら、これはカナダの心理学者、エリック・バーンの言葉だった。『性と愛の交流分析』『人生ゲーム入門 人間関係の心理学』等の著書があり、自分が昔ばっちしこれらの本を熟読(内容は殆ど覚えてないけど)していたことに驚いた。日本の誰かが雰囲気で言い出したテキトーな名言かと思ってたよ・・・。

ちなみにこれには以下の続きがある。

「しかし、いまここから始まる未来と自分は変えられる。」

うーむー、後半は前半より少しマシだが、過去や他人から完全に切り離された今も未来も自分もないからなー。やっぱりビミョー。
さて、前後の文脈など無視して論じているという乱暴ななりゆきの中、それでも原文くらいサーチしておこうと思い確認した処、

“You cannot change others or the past. You can change yourself and the future.”

というのがどうやら原文らしい。(あれ、過去と他人の順番がひっくり返ってるが、取り急ぎよしとする)

なぜか反感が減る! 最初英語と日本語の違いからかと思ったが、この二つの文を通しで読めば、全体が「今」の感じになるからかもしれない。今この瞬間の自分にとっての、過去の経緯も踏まえた上での他人や過去に対する認識を即座に変えるのはできないが、今からの自分や、よって自分のもたらす未来を変えることのできる可能性は常にあるよ、とエリック君が私に語りかけてくれているように感ずる。

あ~言葉ってめんどくさい。週刊誌報道やワイドショーよろしく、耳や頭に入ってくるのは断片が多い。絵なら一発で全体見通せるのにな。

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