ベランダ画壇

技術的なことなので秘していてもいいのだが、自分は今、ベランダで絵を育てている。

主にアクリル絵具で絵を描いているのだけれど、技法がやや特殊で、支持体にペインティングナイフ等で絵具を塗って凹凸のある地を作り、それが乾いてからシルクスクリーン版画などで使うスキージというヘラのような道具で別色をのばす、という行いをする。地の凹部に絵具が入り、凸部は薄くしかのらないので濃淡が得られる訳だ。一種の版表現で、地の微妙な凹凸などは全て次に色をのせたとき反映される。どれくらい微妙なものかと言えば、例えば地に白い絵具を塗るとして、同じジンクホワイトでもメーカーが違うと粒子の大きさや色のほんの少々の違いから、上に絵具を載せた時の結果が異なるという具合。

そこで、地を創った時点で風雪に晒してみたらどうだろうと思った。というか、先般グループ展に参加した際作家さんの一人がご親切に案をくれたのである。自分は風や雨や乾燥や湿度が地塗りをいぢめにいぢめ、上に色をのせた時に面白い効果を及ぼしてくれるのではないかと期待した。それでベランダに地だけ作った状態の施した描き掛けの絵を出して、野ざらしにしているのだ。

実はこの実験は、現在2クール目に入っている。

最初はいつも使っているMDF(集積版)の上に地を作ったのを、乾ききる前にベランダに出し、1週間程楽しみに変化を待った。しかし一週間たって取り込む時に見てみると、あにはからんや表面が多少汚れている程度で目覚ましくは変化・劣化しておらず、悪い予感がしたが案の定上の絵具を施してみても通常とさしたる違いがなかったのである。

樹脂恐るべし!と自分は思い知った。アクリル絵具の主成分はその名の通りアクリル樹脂である。樹脂全般に言えると思うが硬化後は水分などにはめっちゃ強い。雨ガッパを水に濡らすような・・なんていうんだっけこれ、そう、「カエルの面に水」的状態なのであった・・。

私は考えた。上にのっかってるものが堅牢なら下(支持体)をいぢめられやすいものにすればよいのでは、と。下の劣化が上の状況に微妙なる変化を及ぼさないとも限らない。いやむしろ、自分の経験ではかなりの高確率でそれは起こる。そこで支持体を頑丈なMDFからより傷みやすいであろう和紙に変え、その上に絵具を塗って今2回目の実験をしているのだ。普段天気が悪くなると気分も沈むものだが、最近は雨が急にばんばん降ったり、気温が乱高下したりすると心が踊る。

まだ2回目の途中なので、これが成功するかどうかわからない。でも当方がかつて長い間勤めていたソニーという会社のファウンダーである井深大氏も、「成功のコツは成功するまでやること」と仰っている。成功するまでやってみよう。

(でも今これを書いてて思ったが、地の絵具を塗っちゃってからベランダで育てるより、まずは裸の支持体の状態でぼろっぼろに育ててから地の絵具を塗るのが実は正しいんぢゃあないかしら・・?? 3クール目が必要かもしれない・・・。)

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