「再現」は絶対に、できない

何かやっていて(例えば絵を描くなど)ふと劇的にうまくいったとする。そうするとそのプロセスと結果を「再現」して「定着」させようと人は試みるものだ。ちゃらちゃらした人は物事がたまさかうまくいってもせいぜいラッキー!と思う位でそんなことを考えないかもしれないが、大体において美術や音楽やスポーツなどの技芸に関わる人々はことさらまじめな人が多いので、またできたらいいな・・と思うのである。

でもこれは自分の度重なる経験から自信を持って言えるのだが、何事も、絶対に「再現」することはできない。どうして同じプロセスで注意してやってるのに同じ(期待した)結果が出ないのかとこれまで100万回位泣いたような気がするが、考えてみたらそんなのは当たり前。自分の動作はもちろん、画材の状態やらその他回りの全ての条件が完全に一致することはない訳で、そもそも「再現」というコンセプトそのものが、現実世界では成り立たないのである。

でも「練習」を積んでいくとうまくいくぢゃん、というのはある。これは再現を目指すためにするものでなくプロセスにおける条件のトレランスを実践を通して認識し、その範疇に自分や道具や環境のブレを収め目指す結果を得ることへの習熟のためにやっているのである。

でもわかってるつもりでしばしば、この「再現」しようとするコンセプトにすぐにはまってしまうのだ。人間は安心安全を求めるから。うまくいったことが「再現」できると思うとふんわかした気分になれるからである。実際、何事も再現できない、と思うと常にアラートでいなければならない、これは凡人にとってはそこそこホネなのだ。

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